芥川龍之介「侏儒の言葉」より
「小 児」
軍人は小児に近いものである。英雄らしい身振を喜んだり、所謂光栄を好ん だりするのは今更此処に云ふ必要はない。機械的訓練を貴んだり、動物的勇気 を重んじたりするのも小学校にのみ見得る現象である。殺戮を何とも思はぬなどは一層小児と選ぶところはない。殊に小児と似てゐるのは喇叭や軍歌に鼓舞 されれば、何の為に戦ふかも問はず、欣然と敵に当ることである。
この故に軍人の誇りとするものは必ず小児の玩具に似てゐる。緋縅の鎧や鍬形の兜は成人の趣味にかなつた者ではない。勲章も――わたしには 実際不思議である。なぜ軍人は酒にも酔はずに、勲章を下げて歩かれるのであ らう?