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Channel: 神戸・元町からの気まぐれ日記
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虚偽公文書作成罪(刑法156条)

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      3 虚偽公文書作成罪(156条)
(虚偽公文書作成等)
 156条  公務員が,
       その職務に関し,
       行使の目的で,
       虚偽の文書若しくは図画を作成し,又は
       文書若しくは図画を変造したとき      → 印章又は署名の有無により区別して,前2条の例による
                                   (詔書:無期又は3年以上の懲役
                                           有印公文書:1年以上10年以下の懲役
                                           無印公文書:3年以下の懲役又は20万円以下の罰金)
 「虚偽公文書作成罪」は,公務員が,その職務に関し,行使の目的で,虚偽の文書・図画を作成し,または,文書・図画を変造するという犯罪です。
       (1) 主 体
 本罪の主体は,文書の作成権限のある公務員です(最決昭33・4・11,真正身分犯)。
作成権限
 文書の作成権限は,通常,法令・内規で定められていますが,委任・慣例を根拠とする場合でもかまいません。
 したがって,法令・委任などによって公文書の作成を許されている者(いわゆる代決者)は,本罪の主体となりえます(市民課長が市長を代理しうる場合や,助役が村長を代理しうる場合など)。
補助公務員の作成権限
 一定の手続に従って文書を作成する補助公務員についても,「実質的作成権限」を有しているかぎり,本罪の主体になりうると解すべきです。
 「実質的作成権限」とは,文書の内容の正確性を確保するなど,その者への授権を基礎づける一定の基本的条件に従う限度において,作成権限を有していることをいいます(詳しくは前条の解説を参照してください)。
       (2) 行 為
 本罪の行為は,職務に関し,①「虚偽」の公文書(公図画)を「作成」すること(前段),または,②公文書(公図画)を「変造」すること(後段)です。
        ア 虚偽作成(前段)
         (ア) 意 義
虚偽作成(虚偽文書の作成)とは
 虚偽文書の作成とは,真実に合致しない「内容」の文書を作成することをいいます。
 たとえば,権限ある公務員が,虚偽の意思表示にかかる所有権移転登記をあえて登記簿に記入するような場合です。
         (イ) 虚偽の届出にもとづく場合
問題の所在
 では,当事者の届出(申立て)にもとづいて記載される文書について,当該公務員が,その届出事項の内容が虚偽であることに気づきながら記載したという場合にも,当該公務員に虚偽公文書作成罪が成立するでしょうか。
 この点については,当該公務員に,①届出の内容の真否を調査する権限(実質的審査権)があるか,②届出の形式的な要件をチェックする権限(形式的審査権)があるにすぎないかによって分けて検討されます。
①実質的審査をする場合
 当該公務員が届出につき「実質的審査権」を有する場合には,その文書の記載内容が真実に合致すべきことが強く要請されているといえます。それゆえ,申告内容が虚偽であることを知って文書に記載すれば,本罪が成立すると考えられます(通説)。
 判例も,市町村長は,家屋台帳に記載すべきことにつき虚偽事実の届出があったときは,台帳への記載を拒否すべき義務と権能があるから,虚偽と知りながらこれを記載したときは,虚偽公文書作成罪が成立するとしています(大判昭7・4・21)。
②形式的審査をする場合
 他方,登記簿・戸籍簿など,当該公務員に届出につき「形式的審査権」があるにすぎない場合については,争いがあります。
 この点,(A)通説的見解は,当該公務員が,(届出人(申請人)と共謀して自己の職務上の義務を不法に利用した場合は別として)たまたまその虚偽であることを知りながら文書を作成しただけでは,本罪は成立しないとするものとされます(大塚・川端・佐久間)。
 しかし,(B)たとえ形式的審査権を有するにすぎない場合でも,当該事項について虚偽記載は許されないものなのですから,その届出事項が明白に虚偽であることを知りながら,これを受理して記載したものであるときは,本罪の要件を充たすといってよいように思われます(大谷・山口,なお中森)。
 判例も,市町村長は,戸籍の記載をなす際,形式上の要件を備えた届出があれば,届出事項の真否を調査して採否を決する必要はないが,虚偽であることが明白であるときは,その記載を拒むことができるのであるから,その虚偽であることを知りながら記載したときは,虚偽公文書作成罪が成立するとしています(大判大7・7・26)。
          (ウ) 間接正犯の成否
          a 非公務員による場合
事例Ⅰ
 たとえば,「公務員でない甲が,市の消防署長Xに対して火災による被害を受けた旨の内容虚偽の事実を申し立て,情を知らないXをして同人名義の『罹災証明書』を作成させた」という場合,甲に虚偽公文書作成罪が成立するでしょうか。
問題の所在
 Xには『罹災証明書』を作成する権限があるので,同人が作成した証明書は,客観的に「虚偽公文書」といえます。しかし,Xには,その認識がありませんから,虚偽公文書作成罪は成立しません。そこで,甲につき,同罪の間接正犯の成否が問題となります。
非身分者による間接正犯の成否
 この点,虚偽公文書作成罪は,行為者に身分があることによって犯罪を構成する真正身分犯です。
 そこで,真正身分犯については,そもそも非身分者はその実行行為をしえないという立場から,非身分者による間接正犯を一般的に否定する見解があります(大塚・香川)。
 しかし,非身分者も身分者を利用することによって身分犯の保護法益を侵害することは可能ですから,非身分者による真正身分犯の間接正犯は成立しうるというべきです(通説)。
公正証書原本等不実記載罪(157条)との関係
 もっとも,公文書の虚偽記載行為の間接正犯的形態については,「公正証書原本等不実記載罪」(157条)が,文書の種類を限定して,虚偽公文書作成罪に比して軽い処罰規定を設けています
  ※ 157条1項は,情を知らない公務員に対し虚偽の申立てをして,登記簿など(権利・義務に関する公正証書の原本)に不実の記載をさせる行為を処罰しています。法定刑の上限は懲役5年です。つまり,虚偽公文書作成の間接正犯に相当する行為のうち一定のものを,虚偽公文書作成罪(法定刑の上限は10年(有印の場合))よりも軽く処罰することにしているわけです。
 そうすると,それ以外の同様の犯行を虚偽公文書作成罪として広く処罰することは,その趣旨に反するといわざるをえません。
 したがって,少なくとも非公務員については,虚偽公文書作成罪の間接正犯は成立しないと解すべきです(最判昭27・12・25)。
          b 補助公務員(起案担当者)による場合
事例Ⅱ
 では,「市の建築主事Yを補佐して建築物に関する完了検査および検査済証の起案を担当する公務員乙が,検査の結果,建築基準関係規定に適合しないと判明した建築物につき,それに適合する旨の内容虚偽の『検査済証』の起案をしたうえ,情を知らないYにこれを提出し,Yをして同人名義の『検査済証』を作成させた」という場合は,どうでしょう。
非身分者による間接正犯の成否
 まず,本件乙は,公文書の作成名義人ではありませんが,これを利用することによって間接正犯となることは可能というべきです。
公正証書原本等不実記載罪(157条)との関係
 ただし,ここでも,「公正証書原本等不実記載罪」の趣旨を強調して,それ以外の公文書の虚偽記載行為の間接正犯的形態は不可罰であるとする見解もあります(前田)。
職務上公文書の作成に関わる補助公務員の可罰性
 しかし,①補助者とはいえ,職務上公文書の作成に関与する公務員が,「虚偽の申立て」(157条)という形態ではなく,その地位を利用して情を知らない名義人に署名・押印させるなどして文書を完成させる行為は,157条の場合よりも当罰性が高いといわざるをえません。
 また,②職務上公文書の作成に関与する補助公務員であれば,「公務員」が「その職務に関し」なしたものということも可能です。
 したがって,このような補助公務員(起案担当者)については,虚偽公文書作成罪の間接正犯が成立すると解すべきです(最判昭32・10・4)。
[学説のポイント]
 以上の2つの事例の処理について,学説を整理しておきましょう。
 A.否定説
    [内容] まず,すべての者につき「虚偽公文書作成罪の間接正犯」の成立を否定する見解があります。
         この見解は,上記事例Ⅰ・Ⅱとも,間接正犯を否定することになります。
  A1.否定説その1(大塚・香川)
     [内容] 否定説の中には,真正身分犯については,そもそも非身分者はその実行行為をしえないとして,非身分者による間接正犯を一般的に否定する見解もあります。
     [批判] しかし,前述のように,非身分者も身分者を利用することによって身分犯の保護法益を侵害することは可能ですから,非身分者による真正身分犯の間接正犯は成立しうるというべきです。
  A2.否定説その2(前田)
     [内容] そこで,非身分者による真正身分犯の間接正犯自体は一般的に肯定するものの,あえて公正証書原本等不実記載罪(157条)の規定が設けられているのは,同規定が定める場合を除き,虚偽公文書を間接正犯形態で作成させる行為を不可罰とする趣旨であるとして,虚偽公文書作成罪の間接正犯を否定する立場があります。
     [批判] たしかに,非公務員についてはこのようにいえますが,職務上公文書の作成にかかわる補助公務員が内容虚偽の起案をする場合のように当罰性が高いものについても,そのようにいってよいかは疑問です。
  なお,否定説では,「公正証書原本等不実記載罪」(157条)は,この規定がなければ不可罰な行為のうち,とくに処罰の必要があるものを定めたものと説明されます。
 B.肯定説(牧野・川端,なお西田)
    [内容] 他方で,すべての者について「虚偽公文書作成罪の間接正犯」の成立を肯定する見解があります(もちろん,非身分者による真正身分犯の間接正犯が成立しうるとする立場を前提とします)。
         この見解は,上記事例Ⅰ・Ⅱとも,間接正犯を肯定することになります。
         この見解では,「公正証書原本等不実記載罪」(157条)は,虚偽公文書を間接正犯形態で作成させる行為のうち,日常しばしば起こる刑事責任の軽いものにつき,とくに軽く処罰するものと説明することになります。
    [批判] しかし,公正証書原本等不実記載罪を,「日常しばしば起こる刑事責任の軽いもの」といえるかは疑問です。
 C.一部肯定説(判例,平野・藤木・町野・曽根・山口・井田など多数説,なお大谷)
    [内容] そこで,上述のように,①「非公務員」(厳密には「公務員」であっても「職務上公文書の作成にかかわらない者」はこれに含まれる)については虚偽公文書作成罪の間接正犯を「否定」するが,②「職務上公文書の作成にかかわる補助公務員」についてはこれを「肯定」するという見解が判例・多数説となっています。
         この見解では,「公正証書原本等不実記載罪」(157条)は,虚偽公文書の発生に外部から原因を与える行為のうち,とくに処罰の必要があるものを定めたものと説明されることになると思われます(町野,ただし大谷)。
         なお,この見解によれば,「作成権限者」および「職務上文書の作成にかかわる補助公務員」以外の者が虚偽公文書の作成に正犯として関与できるのは,157条の場合に限られるということになります。
        イ 変造(後段)
  本罪の行為は,「変造」を含みます。
 ここでいう「変造」は,他の規定(154条・155条・159条)と異なり,作成権限のある公務員が,その権限を濫用して,既存の公文書に不正に変更を加えて,その内容を虚偽のものにすることをいいます(無形変造)。
       (3) 目 的
 本罪の成立にも,故意のほか,「行使の目的」が必要です。
 

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